新日本酒紀行 地域を醸すもの 日本酒

新日本酒紀行 地域を醸すもの・田光 NO.327

 

新日本酒紀行「田光」
釈迦ヶ岳を背景に早川俊人さん Photo by Yohko Yamamoto

『釈迦ヶ岳の麓、
田光の地で米のうま味や
土地を表す純米造り』

(本文より)

 田の水面が光る様子を表す「田光(たびか)」は、鈴鹿山脈釈迦ヶ岳の麓、三重県の菰野町に実在する地名だ。
町内で酒造りする早川酒造4代目の早川俊人さんは、命運を懸けた新銘柄にこの名を冠した。
東京農業大学醸造学科を卒業した20歳のときから、父の俊介さんと酒造りに励んだが経営は厳しく、給料も休みもない日々を送っていた。
そんな中、俊介さんの旧知の小関敏彦さん(当時、山形県工業技術センター)から、山形県の酒蔵修業の提案があった。蔵は酒田酒造で、蔵元杜氏の佐藤正一さんの繊細で丁寧、真摯な酒造りの姿勢に衝撃を受ける。見るもの聞くもの全てメモを取り、俊人さんの人生を変えた。

  2009年に「田光」を立ち上げた。選んだ酒米は、酒田酒造で最も感動した「上喜元」純米吟醸の米、雄町だ。
夢中で醸した酒を佐藤さんに送ると「早川君らしくて、すごくいい」と好評価。磨きをかけ、全国の雄町の酒が集結する「雄町サミット」に出品すると優秀な成績を収め、その後も受賞を繰り返す。

   主要な酒米は、縁をもらった山形県産の出羽燦々、そして地元の神の穂だ。三重県が開発した酒米を、役場で推薦された篤農家に契約栽培を依頼。酒の味は滋味深く、田光という土地をよく表した。
  それぞれの酒米の個性が生かせるよう、純米醸造のみで、洗米は10kg単位、搾りは醪を袋に入れて槽で優しく丁寧に行う。釈迦ヶ岳からの伏流水の超軟水が仕込み水だ。爽快でうま味のある酒は、まさに田んぼが光り輝く様を思わせる。

 

新日本酒紀行「田光」

 

↑「純米吟醸 田光 神の穂」
早川酒造・三重県三重郡菰野町小島468
●代表銘柄:純米酒 田光、純米吟醸田光 雄町、純米吟醸 田光 出羽燦々、純米吟醸 Malic acid
●杜氏:早川俊人
●主要な米の品種:雄町、出羽燦々、神の穂

新日本酒紀行「田光」
蔵の横を流れる田光川 Photo by Y.Y.
新日本酒紀行「田光」
酒蔵全景 Photo by Y.Y.
新日本酒紀行「田光」
酒蔵玄関 Photo by Y.Y.
新日本酒紀行「田光」
菰野石の狸 Photo by Y.Y.
新日本酒紀行「田光」
田光は母の書 Photo by Y.Y.