新日本酒紀行 地域を醸すもの 日本酒

新日本酒紀行 地域を醸すもの・富久錦 NO.336

新日本酒紀行「富久錦」酒蔵外観 Photo by Yohko Yamamoto

新日本酒紀行 地域を醸すもの「富久錦」FUKUNISHIKI

『酒は土地の風土と思いが造る!
播磨の地産米純米酒蔵』
兵庫県加西市

 全国に先駆け1987年に純米酒宣言を行い、92年に全量純米化した富久錦。播州平野の田園地帯で、1839年に創業した。
6代目の稲岡輝彦さんは、フランスのブドウ畑に囲まれたワイナリーを見て、地産米で醸す純米酒蔵へと方針を大転換。最盛期の1割以下に生産量を激減させた。

 2013年に8代目を継いだ息子の敬之さんは「売れる酒より、飲みたい酒を造りたい」と、古式醸造の生酛造りに注力。
当初は重く渋い味だったが、醸造方法を試行錯誤し、軽やかで切れの良い酸味、滋味深さも併せ持つ味わいに。今や全体の4割が生酛造りだ。

 技術屋肌で凝り性の敬之さんは、麹造りでは防水透湿布など新素材を用い、醸造機器は独自の改良を加えて使う。
また、8時間労働週休2日制を徹底するなど、就労条件も進歩的だ。その一方で、大正時代の100年物の木桶を再生し、木桶仕込みの酒も醸す。「木桶の醪(もろみ)発酵は、土地の環境に敏感。気候に左右され手ごわいが技術が上がる」。
努力は結果に表れ、23年に英国で開催された日本酒コンクールでは、山田錦で醸したスパークリングや生酛の酒など出品した三つ全てが賞を受賞。
「加西市の山田錦の地位向上につながる」と喜ぶ。
契約農家には酒米に難しい注文を付ける分、支払いも増やす。就農する若者が増え、農家は向上心が高い若手ぞろいになり、農家発の企画酒もある。
「酒は土地の風土と思いが造る」が持論。播磨の米と水と人で、播磨の地酒を追求する。

新日本酒紀行「富久錦」
↑「富久錦 純米吟醸 播磨路」
富久錦・兵庫県加西市三口町1048
●代表銘柄:富久錦、純青、Fu.
●杜氏:村崎哲也
●主要な米の品種:山田錦、兵庫夢錦、愛山、渡船、キヌヒカリ、辨慶
新日本酒紀行「富久錦」
酒蔵外観 Photo by Y.Y.
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新日本酒紀行「富久錦」
酒蔵外観。味のある木造建築。 Photo by Y.Y.
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原料処理室 Photo by Y.Y.
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甑は小型の2種を使い分ける Photo by Y.Y.
新日本酒紀行「富久錦」
特注の短い放冷機 Photo by Y.Y.
新日本酒紀行「富久錦」
新日本酒紀行「富久錦」
杜氏の村崎哲也さん。今年の春、丹波杜氏自醸酒唎酒会・純米酒の部で『最高位の兵庫県知事賞』を受賞。受賞した酒は生酛造りの山田錦です。 Photo by Y.Y.
新日本酒紀行「富久錦」
大正時代の3階建て木造建築 Photo by Y.Y.
新日本酒紀行「富久錦」
大正時代の木桶8本を2本に再生 Photo by Y.Y.
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麹室 Photo by Y.Y.
新日本酒紀行「富久錦」
広く、使いやすい麹室 Photo by Y.Y.
新日本酒紀行「富久錦」
ロードセルを新調し、水分管理の精度が向上。Photo by Y.Y.
新日本酒紀行「富久錦」
整理整頓され、清らかに整う麹室。 Photo by Y.Y.
新日本酒紀行「富久錦」
木造の味のある蔵内 Photo by Y.Y.
新日本酒紀行「富久錦」
酒母室 Photo by Y.Y.
新日本酒紀行「富久錦」
発酵中の酒母 Photo by Y.Y.
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仕込み蔵の床は、安全できれいな仕事しやすいフローリング Photo by Y.Y.
新日本酒紀行「富久錦」
搾り機は冷蔵庫内に設置。汚れがわかりやすい、清潔な白色! Photo by Y.Y.
新日本酒紀行「富久錦」
特注の垂れつぼで酸化を抑制しています。 Photo by Y.Y.
新日本酒紀行「富久錦」
楽しい品揃えの明るい直営店「ふく蔵 Photo by Y.Y.
新日本酒紀行「富久錦」
直営店「ふく蔵」には、お酒が全種類勢揃い。試飲もできます。ランチもおいしい! Photo by Y.Y.

信頼される酒米農家のひとり名古屋 敦さん
新日本酒紀行「富久錦」
『一圃一酒』の取り組みを行っています。
新日本酒紀行「富久錦」
名古屋さんの「日本酒の装い」についてはこちらに説明があります。
手がけられたお米もお豆も超美味で、なにもかもセンス抜群!
新日本酒紀行「富久錦」
福久錦さんは、旅行会社のとの企画酒も醸造しています。その旅行会社は京都のみたて庄司英生さん(左)が代表を務めるインバウンド向けの旅行会社。そして、右が庄司さんのお酒の酒米、山田錦を手がけられた栽培農家・元源代表の藤本圭一朗さんです。庄司さんいわく、「一つの田んぼで1人の農家が育てた1品種の米で醸せば、シングルオリジンが名乗れる!」と閃いたのです。富久錦の稲岡さんに相談し、熟成して味がのるよう、生酛造りの純米大吟醸を商品化。銘柄は新月を意味する「」。山田錦の田んぼの土で酒器も作成。
」については→ http://www.yohkoyama.com/archives/5979藤本さんは黒大豆枝豆でも超有名人!超明るい面白い人です。Photo by Y.Y.

新日本酒紀行「富久錦」
8代目の稲岡敬之さん! 全て加西市産の米と水だけの純米酒を醸しています。
次から次へと意欲作を発表。希少な酒米にも挑戦。 Photo by Y.Y.
新日本酒紀行「富久錦」
生酛造り純米大吟醸 神代の舞 Photo by Y.Y.
新日本酒紀行「富久錦」
山田錦 特別純米 Photo by Y.Y.
新日本酒紀行「富久錦」
「純青」山田錦。どれもこれも美酒 Photo by Y.Y.

日本酒と食のジャーナリスト 山本洋子

週刊ダイヤモンド2024年3月23日号より転載