新日本酒紀行 地域を醸すもの 日本酒

週刊ダイヤモンド・新日本酒紀行 特別編「コロナ後の日本酒ビジネスを占う、業界驚愕企画「秋田旬吟醸2020」の真髄

↑写真提供:秋田県酒造協同組合

今号の週刊ダイヤモンド「新日本酒紀行」は特別編です!

コロナ後の日本酒ビジネスを占う、

業界驚愕企画「秋田旬吟醸2020」の真髄

新日本酒紀行【特別版】

特集『賢人100人に聞く!日本の未来』(全55回)の#28は、連載『新日本酒紀行の特別版をお届けする。コロナ後の日本酒を占うために、4人の賢人たちの動きに注目した。(酒食ジャーナリスト山本洋子)

日本酒の出荷量は1973年の177万klをピークに減少し、
現在は50万klを割る。4000場あった酒蔵は1700場に。

 輸出が好調といわれるが、製造量の5%にすぎない。そこにコロナが直撃し飲食店が休業や時短営業になり、旅行や祭りも自粛で酒の行き場がなくなった。

 今回は、4人の賢人からコロナ後の日本酒を占う動きを見いだしたい。

 

即日1万6200本をほぼ売り切った
「秋田旬吟醸2020」

↑写真提供:秋田県酒造協同組合

まずは、秋田県酒造協同組合の「秋田旬吟醸2020」。

 この企画は業界を驚かせた。県内30蔵の酒各540本を統一ブランドでネット販売し、即日1万6200本をほぼ売り切った。

 需要開発委員長で秋田清酒社長の伊藤洋平さんが言う。

↑需要開発委員長で秋田清酒社長の伊藤洋平さん。「刈穂」は全量槽搾り 写真提供:秋田清酒

「毎年、『秋田の酒を楽しむ会』を東京で開催しており、その代わりになるものをと委員会で協議。統一ブランド構想が生まれました」。

 米は県産、品質は純米吟醸以上と決めた。

 当初予算がなく、委員会メンバーの新政酒造社長の佐藤祐輔さんがデザインを、まんさくの花佐藤公治さんがウェブ関連を担当。

 個性ある30蔵を視覚に訴える色で表し、グラデーションで輪をつないで調和を示した。SNSで情報発信すると「秋田県が推し色の日本酒を発売」と瞬く間に拡散。

 洋平さんの蔵では槽(ふな)搾りの出品仕様の酒を詰めた。

日本酒の中でも純米酒は高い技術を要する

 デザインを担当した祐輔さんは、酒を作品と呼び、ボトルやラベルのデザインも自社で行う。蔵発祥の6号酵母と秋田県産米のみを使い、生〓造り(〓は酉に元)、蓋麹法、木桶仕込みと伝統製法で醸す。

 農薬を使わない米を求め、2015年に中山間地の鵜養(うやしない)地区に自社田を購入。前杜氏の古関弘さんを常駐させ、地元農家と契約栽培を開始。今年、全農家が農薬不使用に挑み、耕作放棄地も復田し、酒米田は30町歩に広がった。将来、この地に酒蔵と木桶工房を造る予定だ。

「稲作農業が大変なダメージを受けています。日本酒の中でも純米酒は高い技術を要する酒。農業や国土の保全にも貢献する純米酒を飲んでほしい」と祐輔さん。

新政酒造社長の佐藤祐輔さん 写真:船橋陽馬

↑農薬や化学肥料不使用の酒米の郷、鵜養 写真:高橋希

↑生〓造り(〓は酉に元)、蓋麹法、木桶仕込みと伝統製法を貫く 写真:高橋希

 

酒が動かないと、1次産業の経済も回らない

 栃木県のせんきん専務の薄井一樹さんは「オーガニックナチュールが蔵の顔」と言う。

 仕込み水と同じ水系の田んぼで有機栽培した亀の尾を、生〓造り(〓は酉に元)と天然酵母、木桶で仕込む酒だ。

せんきん専務の薄井一樹さん。木桶は高さ約2m、長径1.7m 写真提供:せんきん

↑自然米を古代製法で醸す「オーガニックナチュール」。蔵のシンボルは鶴。愛情の赤、伝統の白、革新の黒を表す

 コロナで輸出ができず、国内需要も落ち込んだが既に回復。

 この状況下で変えたことは蔵元自らの情報発信。

「酒販店に任せていたが、共倒れになる」と醸造の背景、新酒案内をSNSで発信。キャッチした人が店へ行く流れをつくった。

 また一樹さんは若手9蔵のチーム長も務めるが、中止したイベントの代案が全蔵の酒のアッサンブラージュだ。

 ネットで出資を募ると、目標額300万円を超える657万円が集まった。

「酒が動かないと、次の酒造りが不可能。1次産業の経済も回らない」。

 視点を変えて動く。

 一樹さんは木桶をさらに新調し、来季は12本で醸す。

↑有機JAS認定取得の自社田 写真提供:せんきん

(終わり)

週刊ダイヤモンド20年9月26日号

賢人100人に聞く! 日本の未来

  • ダイヤモンド社
  • 定価:本体664円+税
  • 発行年月:2020年09月