新日本酒紀行 地域を醸すもの 日本酒

週刊ダイヤモンド 新日本酒紀行 地域を醸すもの・伊根満開 NO.202

   

新日本酒紀行 地域を醸すもの

週刊ダイヤモンド2021年3月27日号

「伊根満開」INEMANKAI

京都府与謝郡伊根町

山本洋子:酒食ジャーナリスト

『古代米で醸す、

  伊根の舟屋の赤い酒

(本文)

 海の京都と呼ばれる伊根町は天橋立に近い漁師町。1階に船を納め、2階を住居にした舟屋が伊根湾沿いに並ぶ。町唯一の酒蔵、創業1754年の向井酒造はこの舟屋で酒を仕込む。

 漁港らしい銘柄「大漁旗」や「益荒猛男」に加え、1999年から杜氏を務める向井久仁子さんが伊根町産の古代米で醸す赤い酒「伊根満開」が注目の的だ。プルーンのような酸味と甘味、奥深さは唯一無二、冷たくても温めても美味。

 貫禄ある杜氏の久仁子さんだが、子供の頃のスターは漁師。その姿に憧れ水産高校に進むつもりが、厳格な父が自分の出身校、東京農業大学の受験を手配。しぶしぶ入ると、担任の竹田正久教授は父も指導したベテランで、酒造りの面白さを教わる。

「話題性のある酒を造れ」と指導され、卒業研究で古代米を使った赤い酒に挑戦。だが酒質はひどく、研究は教授と後輩が引き継いだ。

 卒業後、蔵へ戻ると、父が町長選挙への出馬を決め、いきなり蔵元杜氏に抜擢。無我夢中で酒を造る中、研究成果を基に古代米の試験醸造を続け、少しずつ酒質が上がり製品化する。

 銘柄は町名に久仁子さんが好きな言葉「満開」を付けた。

 地元農家に古代米の栽培を依頼し、2013年から古代米は全量町内産に。

 姉の孤軍奮闘を見た妹と弟も酒造に加わり、きょうだい3人で酒蔵を営む。

「修業足らずで劣等感もありましたが、常識が叩き込まれていたら赤い酒はできなかった」。

 試行錯誤で20年以上、今や赤い酒は蔵の顔だ。

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伊根満開

●向井酒造・京都府与謝郡伊根町字平田67●代表銘柄:京の春 生酛特別純米酒、京の春 大漁旗、益荒猛男●杜氏:向井久仁子●主要な米の品種:紫小町、祝、五百万石、京の輝き、山田錦

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【写真】杜氏の向井久仁子さん、山側・舟屋の蔵

杜氏の向井久仁子さん

杜氏の向井久仁子さん💛明るく楽しいみんなの人気者。最高の笑顔をパチリ Photo by Y.Y.

山側の蔵

左が山側の蔵。売店も併設 Photo by Y.Y.

麹米は10kgずつ洗米

麹米は10kgずつ洗米しています Photo by Y.Y.

舟屋の蔵

海に面した舟屋の蔵 Photo by Y.Y.