新日本酒紀行 地域を醸すもの 日本酒

新日本酒紀行 地域を醸すもの・富士錦 255

週刊ダイヤモンド22年4月30日・5月7日合併特大号連載「新日本酒紀行 地域を醸すもの」では、静岡県富士宮市上柚野の酒蔵、富士錦酒造「富士錦」をご紹介しています。

山本洋子:酒食ジャーナリスト

酒蔵入り口
酒蔵入り口 Photo by Yohko Yamamoto

『富士山麓で酒米を育てて酒造り。
 酒蔵マルシェも大人気』

 富士山を仰ぐ田園地帯にある富士錦酒造は、蔵の横で酒米を育て、地の素材で酒造りに励み、蔵開きには1万人以上が集う。

 蔵元は26年前に、33歳で妻の生家の酒蔵を継いだ18代目の清信一さん。「愛される蔵」をモットーに意識改革を進め、蔵を再生した。

 信一さんは横浜生まれの横浜育ち。シンクタンクのシステムエンジニアだったが、突然の義兄の交通事故死で、運命が変わった。

 東京農業大学の教授に理由を話し、2年分の醸造カリキュラムを半年で学び入社。蔵は年長者ばかりで伝統的な風習が残り、一筋縄ではいかない。そんな中、前職の専門を生かし、営業や酒造りにコンピューターを導入。数値化した情報を社内で共有し、ミスを防ぎ分析に役立てて成果を上げた。その一方、蔵の隣で酒米の栽培を開始。品種は静岡県が開発した誉富士だ。

 蔵と酒を地元の人に知ってもらおうと、25年前から春の蔵開きを企画。搾りたての酒を出し、人気のカフェや食堂を集めて移動動物園も用意。家族全員で楽しめる内容はその後、1万人以上が集まる一大イベントに成長。

「毎年参加のご夫妻のお子さんが、20歳になって『富士錦』で乾杯してくれたんです」と信一さん。

 コロナ禍以後は小規模なマルシェに変更し、毎月開催。日本酒以外にも地元の梅や甘夏、ユズ、ブルーベリーを使ってワインやリキュールも手掛け、中でも本山茶の一番茶を使った焼酎「八十八夜」は高評価。

 地の宝で地の酒を醸し、地元を笑顔にする蔵を目指す。

富士錦 特別純米 ほまれふじ
↑「富士錦 特別純米 ほまれふじ」

富士錦酒造・静岡県富士宮市上柚野532
●代表銘柄:富士錦 純米酒、純米吟醸 清、富士錦 純米大吟醸 山田錦、純米大吟醸 愕堂
●杜氏:小田島健次
●主要な米の品種:誉富士、山田錦、雄町、美山錦
誉富士の田植え
誉富士の田植え Photo:fujinishikisyuzou
収穫前の田んぼ
収穫前の田んぼ Photo:fujinishikisyuzou
収穫前の田んぼ
収穫前の田んぼ Photo:fujinishikisyuzou
仕込み水は富士山の伏流水
仕込み水は富士山の伏流水 Photo:fujinishikisyuzou
蒸気が上がる蔵
蒸気が上がる蔵 Photo:fujinishikisyuzou
1927年築の蔵の屋根はトラス構造で耐震補強も万全
1927年築の蔵の屋根はトラス構造で耐震補強も万全 Photo:fujinishikisyuzou
1927年築の蔵の屋根はトラス構造で耐震補強も万全
1927年築の蔵の屋根はトラス構造で耐震補強も万全 Photo by Y.Y.
安全を重視した階段と手すり
安全を重視した階段と手すり Photo by Y.Y.
麹室
麹室 Photo by Y.Y.
吟醸蔵は冷蔵庫仕様
吟醸蔵は冷蔵庫仕様 Photo by Y.Y.
蔵人たち
杜氏と蔵人たち Photo:fujinishikisyuzou
清信一さん
清信一さん Photo by Y.Y.
屋敷の鬼瓦には屋号の「やま十」と水しぶきの紋。水に困らず、水難に遭わないように
屋敷の鬼瓦には屋号の「やま十」と水しぶきの紋。水に困らず、水難に遭わないように Photo by Y.Y.
本山茶を使った焼酎「八十八夜」
本山茶を使った焼酎「八十八夜」。あとくちに爽やかな新茶の香りが残る。 Photo by Y.Y.
飲み比べセット
富士錦を代表する3本の飲み比べセット Photo by Y.Y.

(酒食ジャーナリスト 山本洋子)

週刊ダイヤモンド2022年4月30日・5月7日号より転載