新日本酒紀行 地域を醸すもの 日本酒

新日本酒紀行 地域を醸すもの・ぷくぷく醸造 NO.286

新日本酒紀行「ぷくぷく醸造」Photo by pukupuku brewing
週刊ダイヤモンドの連載 新日本酒紀行 地域を醸すもの
23年1月28日号は 福島県南相馬市小高区

新日本酒紀行「ぷくぷく醸造」

↑立川哲之さん

復田と地域復興を目指し、
ファントムブルワリーで福島の地酒造り』

(本文)
 ビール界では自分の醸造所を持たず、他の醸造所を借りて造ることをファントム(幽霊)ブルワリーと呼ぶ。その名を日本酒で名乗るのが立川哲之さんだ。福島第一原子力発電所から17kmの南相馬市小高区で、2022年7月に創業。発酵する泡の様子と福島の「ふく」を掛けて「ぷくぷく醸造」と名付けた。

 立川さんは筑波大学の学生時代に、日本酒に出合いとりこになった。同時期、東日本大震災の被災地へボランティアで通い、福島県沿岸の相双地域に酒蔵がなくなったことを知る。

  卒業後、いったんは就職するが辞めて、宮城県名取市閖上の佐々木酒造店で3年修業。最後の年に醸造設備を借り、自分のレシピで酒を造って完売した。ビール醸造所でも経験を積み、21年2月にクラフトサケで起業した南相馬市のhaccoba(はっこうば)で醸造長に就任。東北に伝わるどぶろくの花酛(はなもと)造りをヒントに、ホップを配合した爽やかな酒を商品化する。

 「昔のどぶろくは粟(あわ)や稗(ひえ)、木の実、山葡萄(ぶどう)を加えたりと自由で個性豊かだった」と立川さん。

 日本酒の醸造免許は60年、新規では下りず、酒造りを目指す人は、どぶろくを含む「その他の醸造酒」の免許を取得するか、規制のない海外へ出る。立川さんが選んだファントムブルワリーは、醸造先の免許で酒を造る方式故に純米酒も醸せる。蔵により設備、水、環境が違い難しい面もあるが「制約こそが創造を生む」と奮起。

 目標はこの地で田を手掛け、酒蔵を立ち上げること。復田と地域復興を米の酒で突き進む。

新日本酒紀行「ぷくぷく醸造」
↑「ぷくぷく醸造のホップサケ モザイク」

●ぷくぷく醸造・福島県南相馬市小高区本町1-87 小高パイオニアヴィレッジ ●代表銘柄:ホップサケ、ホップどぶろく、純米酒
●杜氏:立川哲之●主要な米の品種:天のつぶ、コシヒカリ、雄町
新日本酒紀行「ぷくぷく醸造」
立川哲之さん Photo by pukupuku brewing
新日本酒紀行「ぷくぷく醸造」
修業先の蔵元、宮城県名取市閖上(ゆりあげ)の佐々木酒造店の人たちと。この蔵の設備を借りて酒を醸す Photo by pukupuku brewing
●佐々木酒造店 → https://housen-naminooto.com