新日本酒紀行 地域を醸すもの 日本酒

新日本酒紀行 地域を醸すもの・蓬莱鶴 NO.291

新日本酒紀行「蓬莱鶴」
マンションは京橋川に面した地上10階建て Photo by Yohko Yamamoto

『日本初のマンション蔵が新機軸で醸す
少量仕込みの爽快な地酒』

(本文)

   広島城から近い、広島市中心部に残る唯一の酒蔵、原本店。

 創業1805年の老舗蔵だ。1945年の原爆投下で蔵は全焼。再建して健闘するが、日本酒の消費低迷期に入り苦戦が続く。

 90年、5代目の逝去を機に酒蔵を廃業し、マンション化する計画が起こる。
6代目の原純さんは当時、別の醸造会社に勤務していたが、マンションの地下に醸造所を設け、1人で酒造りをすることを決断。

 面積も天井高もわずかしか確保できず、極少量仕込みの四季醸造が可能なマイクロ酒蔵を設計した。

 酒造の心臓部である麹室は杉材が多いが、前代未聞のアウトドア用透湿防水素材でテント式麹室を発明。ヒントは、友人の「雪山のテントでコーヒーを沸かしても結露しない」という言葉。

 メーカーから生地を取り寄せ試作すると、室に最適な条件がそろい、後に酒造機器メーカーが製品化したほどだ。課題は高品質な酒が、どこまで少量仕込みで実現できるかの見極め。

 苦労の末、95年に日本初のマンション蔵として再出発を果たす。常に新鮮な美酒は、人々を魅了し人気蔵に成長。

 今まで少量仕込みに合う高温糖化酛の製造一本だったが、生酛造りに挑戦。

「ワクワクドキドキの酒造りで、目と鼻全開で造りました」と原さん。

 軽やかながら複雑なうま味を併せ持ち、令和の新世代生酛として注目される。

 新機軸で醸し続けて27年。
全量を広島県産酒米と県産酵母のみで醸し、地酒に特化。

 小さな蔵の大きな挑戦はやむことがない。

新日本酒紀行「蓬莱鶴」
↑「蓬莱鶴 生酛純米」
●原本店・広島市中区白島九軒町9-19
●代表銘柄:蓬莱鶴 奏 harmony純米吟醸、同 純米大吟醸、蓬莱鶴 純米大吟醸生酒、蓬莱鶴 特別純米酒
●杜氏:原 純
●主要な米の品種:八反錦、千本錦、雄町
新日本酒紀行「蓬莱鶴」
酒蔵の入り口 Photo by Y.Y.
新日本酒紀行「蓬莱鶴」
通路の窓から見える醸造室 Photo by Y.Y.
新日本酒紀行「蓬莱鶴」
通路の窓から見える醸造室 Photo by Y.Y.
新日本酒紀行「蓬莱鶴」
室温は通年5℃ Photo by Y.Y.
新日本酒紀行「蓬莱鶴」
酒母は高温糖化酛 Photo by Y.Y.
新日本酒紀行「蓬莱鶴」
蔵元杜氏の原純さんが考案した透湿防水生地を使った麹室 Photo by Y.Y.
新日本酒紀行「蓬莱鶴」
蔵元杜氏の原純さんが考案した透湿防水生地を使った麹室 Photo by Y.Y.
新日本酒紀行「蓬莱鶴」
仕込みタンク。総米150kgの少量仕込み Photo by Y.Y.
新日本酒紀行「蓬莱鶴」
もろみを搾る槽 Photo by Y.Y.
新日本酒紀行「蓬莱鶴」
酒は購入可 Photo by Y.Y.
新日本酒紀行「蓬莱鶴」
数々の賞を受賞 Photo by Y.Y.
新日本酒紀行「蓬莱鶴」
一番人気の「蓬莱鶴 奏」 Photo by Y.Y.