新日本酒紀行 地域を醸すもの 日本酒

新日本酒紀行 地域を醸すもの・結ゆい NO.312

新日本酒紀行 地域を醸すもの

北海道上川郡東川町

結城酒造「結ゆい」

新日本酒紀行「結ゆい」
火災前の結城酒造 Photo by Yohko Yamamoto

『酒蔵焼失、茨城から北海道へ単身移住。
土地と人を結び醸し続ける』

 嫁ぎ先の酒蔵で杜氏を買って出て、さまざまな鑑評会で受賞を繰り返し「彗星現る」と称された、茨城県結城市結城酒造の浦里美智子さん。新銘柄「結ゆい」も好調だったが、2022年の5月に状況が一変する。築170年の酒蔵から出火し、隣接する自宅も全焼。れんがの煙突だけが残った。

 憔悴した美智子さんに声を掛けたのは、北海道の三千櫻酒造蔵元杜氏の山田耕司さんだ。
火事の直前、三千櫻酒造で一緒に商品開発をした経緯もあり、夫と息子と離れ単身での移住を決めた。副杜氏を務め、自分の酒も醸す。

 蔵は大雪連峰旭岳の麓、東川町で、冬は外気温がマイナス20℃以下になり、外気に当たった洗い布は瞬時に凍るが、仕込み水は通年10℃と安定。「断熱性の高い醸造室は、隙間風のあった前の蔵より暖かく、清潔で効率の良い酒造りは快適です」と美智子さん。

 夫の昌明さんは茨城県の来福酒造で働き、一人息子の甲子郎くんは、今年の春に札幌市の全寮制高校に進学した。「すぐに会いに行けるので心置きなく酒造りに専念できます」と美智子さんは笑顔を見せる。

 以前の仕込み水は軟水、今は中硬水で、醪(もろみ)の発酵は旺盛になった。

 新しい酵母にも挑み、酒質をさらに極めた北海道育ちの「結ゆい」はクリアさが増し、美しい余韻を奏でるように。そして最もほれ込む酒米、岡山県の堀内由希子さんが育てた雄町の酒が、今年も「雄町サミット」の2部門で優等賞を受賞。

 酒蔵再建への道は遠いが、北の新天地で土地と人を結ぶ酒を醸す。

新日本酒紀行「結ゆい」
結ゆい 純米大吟醸
●三千櫻酒造・北海道上川郡東川町西2号北23番地(販売 結城酒造・茨城県結城市結城1589)
●代表銘柄:結ゆい 純米大吟醸 別誂、結ゆい 特別純米酒
●杜氏:浦里美智子
●主要な米の品種:雄町

新日本酒紀行「結ゆい」
浦里美智子さんと夫の昌明さん Photo by Yohko Yamamoto
新日本酒紀行「結ゆい」
蔵の中 Photo by Yohko Yamamoto
新日本酒紀行「結ゆい」
蔵の中 Photo by Yohko Yamamoto
新日本酒紀行「結ゆい」
特注した桐製の麹箱 Photo by Yohko Yamamoto
新日本酒紀行「結ゆい」
今は煙突と釜場が残る Photo by Yukishuzo

新日本酒紀行「結ゆい」

新日本酒紀行「結ゆい」
Photo by Yukishuzo
新日本酒紀行「結ゆい」
北海道東川町の春の圃場 Photo by Michizakurashuzo
新日本酒紀行「結ゆい」
冬の三千櫻酒造 Photo by Michizakurashuzo
新日本酒紀行「結ゆい」
酒造中の美智子さん Photo by Yukishuzo
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酒造中の美智子さん Photo by Yukishuzo
新日本酒紀行「結ゆい」
三千櫻酒造の山田耕司さんと美智子さん。 Photo by Yukishuzo
新日本酒紀行「結ゆい」
茨城県の来福酒造さん Photo by Yohko Yamamoto
新日本酒紀行「結ゆい」
来福酒造の蔵元・藤村俊文さん(右)と杜氏の佐藤明さん Photo by Yohko Yamamoto
新日本酒紀行「結ゆい」
酒造りに励む昌明さん Photo by Yukishuzo
新日本酒紀行「結ゆい」
酒造りに励む昌明さん Photo by Yukishuzo
新日本酒紀行「結ゆい」
「雄町サミット」で優等賞の特別純米酒 Photo by Yohko Yamamoto
新日本酒紀行「結ゆい」
「雄町サミット」で優等賞の特別純米酒 Photo by Yohko Yamamoto
新日本酒紀行「結ゆい」
純米大吟醸 別誂 Photo by Yohko Yamamoto
新日本酒紀行「結ゆい」
純米大吟醸 別誂 Photo by Yohko Yamamoto
新日本酒紀行「結ゆい」
優等賞の純米大吟醸 Photo by Yohko Yamamoto

(酒食ジャーナリスト 山本洋子)

週刊ダイヤモンド2023年9月2号より転載