新日本酒紀行 地域を醸すもの 日本酒

週刊ダイヤモンド 新日本酒紀行 地域を醸すもの・るみ子の酒 NO.187

創業1897年。蔵は伊勢神宮に続く大和街道沿い

創業1897年。蔵は伊勢神宮に続く大和街道沿い Photo by Yohko Yamamoto

『女性杜氏の草分け!
るみ子さんが醸す人生懸けた純米酒』

女性杜氏の草分けである森喜酒造場5代目の森喜るみ子さん。大阪大学薬学部を卒業し、製薬会社に勤務中、父が脳梗塞で倒れる。急きょ結婚して1989年に家業を継ぐが、人手不足のため、妊娠中でも朝4時に起き、30kgの米袋を運んだ。家計を助けるため薬剤師の免許を生かして薬局にも勤務。さらに3人の子育てが加わり、分刻みの日々を過ごしていた。

そのとき出合った漫画が『夏子の酒』だ。

主人公は自分と同じ造り酒屋の跡取り娘。境遇が似ていて、思い悩む姿に共感。あふれる思いを手紙に書き、原作者の尾瀬あきらさんに送ると、純米酒蔵として知られる神亀酒造の小川原良征さんを紹介された。

酒造りの指導を受け、自ら杜氏になることを決意。92年に無我夢中で醸した酒を尾瀬さんが「るみ子の酒」と命名し、ラベルの絵を描いてくれた。

家の田んぼが圃場整備されたのを契機に、酒米の山田錦の無農薬栽培を開始。今、田んぼは9反に増え、酒全体の1割を賄う。99年からは全量が純米酒になった。

蔵人は少しずつ増え、東京農業大学短大を卒業後すぐに蔵入りした豊本理恵さんは今季で20年目、杜氏も務める。娘の希さんも蔵人になり、少しずつ光が見えた。

だが1897年創業の蔵は古く、70年使った搾り機が壊れ、中古の搾り機を導入するも制御盤が故障。修理費が100万円と聞き、手動でバルブの調節を行う。

次々と試練が襲うが、「醸すに追い付く貧乏なし」と、るみ子さんは笑う。

酒造り31年目の冬を迎える。

るみ子の酒 特別純米酒

るみ子の酒 特別純米酒
●森喜酒造場・三重県伊賀市千歳41-2●代表銘柄:るみ子の酒 純米大吟醸、るみ子の酒 純米吟醸、るみ子の酒 純米酒、英 生〓(〓は酉に元)●杜氏:豊本理恵●主要な米の品種:山田錦、伊勢錦、八反錦、ひとごこち

右から、杜氏の豊本理恵さん、森喜るみ子さんと娘の希さん

右から、杜氏の豊本理恵さん、森喜るみ子さんと娘の希さん Photo by Y.Y.

麹は全量を手間のかかる蓋麹法で造る。麹の切り返し作業中

麹は全量を手間のかかる蓋麹法で造る。麹の切り返し作業中 Photo by Y.Y.

麹は全量を手間のかかる蓋麹法で造る。麹の切り返し作業中

麹は全量を手間のかかる蓋麹法で造る。麹の切り返し作業中 Photo by Y.Y.

仕込み蔵

仕込み蔵 Photo by Y.Y.

搾り機。右が故障中の昔の縦型搾り機の槽。左がヤブタ式横型搾り機

搾り機。右が故障中の昔の縦型搾り機の槽。左がヤブタ式横型搾り機 Photo by Y.Y.

二人三脚で蔵を支える夫の英樹さんと

二人三脚で蔵を支える夫の英樹さんと Photo by Y.Y.

自社田の酒米と酒のセット

自社田の酒米と酒のセット Photo by Y.Y.

山廃純米

山廃純米 Photo by Y.Y. 拡大画像表示

活性濁り生原酒

活性濁り生原酒 Photo by Y.Y. 拡大画像表示

無農薬山田錦85%。酒は蔵で購入可

無農薬山田錦85%。酒は蔵で購入可 Photo by Y.Y.

(酒食ジャーナリスト 山本洋子)

週刊ダイヤモンド2020年12月5日号より転載