新日本酒紀行 地域を醸すもの 日本酒

週刊ダイヤモンド 新日本酒紀行 地域を醸すもの・万齢 NO.188

新日本酒紀行「万齢」

佐賀県唐津市相知町

休造蔵を復活!
元証券マンが醸す伝統製法の

唐津の辛口地酒

小松大祐さんと定番の超辛口

↑小松大祐さんと定番の超辛口 Photo by Yohko Yamamoto

「金は悪です」。キッパリ言い切る小松大祐さん。焼き物の町、佐賀県唐津市相知町の小松酒造7代目の蔵元杜氏だ。

 慶應義塾大学卒業後、大手証券会社でトップセールスマンとして活躍したが、金を巡って醜く争う人々を数多く見た。悩んだ揚げ句、高給取りの身分を捨て、実家の酒蔵を継いだ。

「酒造りでもうけた金は全て酒造りに返し、子供たちにはびた一文残しません」。

 戦時中は海軍御用達の清酒も手掛けた蔵だったが、先代の父は、日本酒に未来はないと休造を決め、蔵を閉じる準備に。

 大祐さんが蔵に戻って最初の仕事は在庫品の販売で、「トップセールスマンの経験から、俺に売れないものはないと思って」。だが、酒の説明ができずに苦戦する。

「酒造りからやらんと、酒蔵復活はなかばい」と決心。広島の酒類総合研究所や、島根の酒蔵で2年間修業。

 そして、恐る恐る造った酒が、福岡国税局鑑評会で優等賞を受賞。その後も入賞を繰り返す。

 特徴は丁寧な小仕込みによる酒造り。木の道具を多用し、米を蒸す甑も昔ながらの木製のものを使う。

 蔵は室町時代から続く日本最大級の「蕨野の棚田」に近く、県内有数の米の名産地。

しかし、高齢で引退する契約農家が増えたため、田んぼを少しずつ引き受け、酒米栽培も開始。近年は麹の甘酒や、飲んでおいしい味醂も商品化した。

「新しいことに挑み、工夫するのが面白い」。

飲めば、万の齢まで長生きできる商品を。大祐さんの挑戦は、まだまだ続く。

万齢 特別純米 超辛口

万齢 特別純米 超辛口
●小松酒造・佐賀県唐津市相知町千束1489●代表銘柄:純米吟醸 万齢、特別純米 万齢、純米酒 万齢●杜氏:小松大祐●主要な米の品種:山田錦、雄町、西海134号、美山錦

甑は木桶を福岡・八女の木工製作所で改造

甑は木桶を福岡・八女の木工製作所で改造 Photo by Y.Y.

大正時代の麹室。天井と壁には籾殻を入れて断熱

大正時代の麹室。天井と壁には籾殻を入れて断熱 Photo by Y.Y.

大正時代の麹室。天井と壁には籾殻を入れて断熱

大正時代の麹室。天井と壁には籾殻を入れて断熱 Photo by Y.Y.

大正時代の麹室。天井と壁には籾殻を入れて断熱

大正時代の麹室。天井と壁には籾殻を入れて断熱 Photo by Y.Y.

大正時代の麹室。天井と壁には籾殻を入れて断熱

大正時代の麹室。天井と壁には籾殻を入れて断熱 Photo by Y.Y.

昔の搾り機の槽。海軍御用達時代の名残

昔の搾り機の槽。海軍御用達時代の名残 Photo by Y.Y.

昔の搾り機の槽。海軍御用達時代の名残

昔の搾り機の槽。海軍御用達時代の名残 Photo by Y.Y.

焼酎に使う古い減圧蒸留器

焼酎に使う古い減圧蒸留器 Photo by Y.Y.

仕込み蔵

仕込み蔵 Photo by Y.Y.

味醂、焼酎、リキュールも揃う蔵の直売所

味醂、焼酎、リキュールも揃う蔵の直売所 Photo by Y.Y.

万齢 純米大吟醸 栞と灯。地元産山田錦を使用

万齢 純米大吟醸 栞と灯。地元産山田錦を使用 Photo by Y.Y.

大吟醸同様に50%精米した麹甘酒

大吟醸同様に50%精米した麹甘酒 Photo by Y.Y.

江戸時代築の母屋。春と秋に酒蔵祭を開催

江戸時代築の母屋。春と秋に酒蔵祭を開催 Photo by Y.Y.

(酒食ジャーナリスト 山本洋子)

週刊ダイヤモンド2020年12月12日号より転載

https://www.diamond.co.jp/magazine/20242121220.html