新日本酒紀行 地域を醸すもの 日本酒

新日本酒紀行 地域を醸すもの・甲子234

週刊ダイヤモンド21年11月20日号
新日本酒紀行 地域を醸すもの「甲子」KINOENE
千葉県印旛郡酒々井町

山本洋子:酒食ジャーナリスト新日本酒紀行

 

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徒歩10分の南酒々井駅 Photo by Yohko Yamamoto

酒で人を呼ぶ「場づくり」を強化。
酒々井町の老舗酒蔵の挑戦

(本文)

酒の字を含む市区町村は、全国でも山形の酒田市と千葉の酒々井町の二つだけ。その後者、酒々井町で元禄時代に創業した酒蔵が飯沼本家だ。

 主要銘柄は「甲子正宗」で、12代飯沼喜一郎さんの生まれ干支の甲子から命名された。

 酒蔵近くの香取神社には町指定の無形民俗文化財「馬橋の獅子舞」が伝わり、演舞には多くの人が集まる。

 15代の飯沼喜市郎さんは、演舞時に並ぶ酒が灘や伏見の大手ばかりという悔しい思いを経験。地の酒の魅力を高めようと、酒の場づくりに力を入れ、酒蔵見学に田植えや稲刈り、酒造り体験を実施。試飲できるカフェや売店も併設した。

 蔵近くの1500坪の畑には800本の苗を植え、ブルーベリー園を設営。アウトドアで酒が飲めたらと蔵の隣の広大な芝生広場に、手ぶらでOKのBBQ場を季節限定で開く。

 16代の飯沼一喜さんは「日本酒コンテンツで蔵をにぎわせたい」と、喜市郎さんの思いを受け継ぎ展開する。

 季節限定酒にも注力し、夏はリンゴ酸多産生酵母を用いた「きのえねアップル」が大人気。日本酒離れした爽やかさとおしゃれな瓶で新たなファンを獲得した。

 名物は、毎年11月初旬の金曜に発売する日本酒ヌーボーの「酒々井の夜明け」だ。夜中に搾って夜明けに出荷するピチピチの新酒の純米大吟醸。搾る日が変更できず、もろみ管理に神経を使う杜氏泣かせの酒でもある。

 来春には国の登録文化財の母屋で日本料理と酒の店を開く。

 挑戦はまだまだ続く。

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甲子 純米吟醸酒

飯沼本家・千葉県印旛郡酒々井町馬橋106 ●代表銘柄:甲子 純米酒、きのえねアップル、甲子Actiba千葉山田錦80、純米吟醸古酒 汲古 ●杜氏:川口幸一 ●主要な米の品種:ふさこがね、五百万石、山田錦

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蔵の案内板 Photo by Y.Y.

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蔵の案内板 Photo by Y.Y.

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酒蔵入り口 Photo by Y.Y.