新日本酒紀行 地域を醸すもの 日本酒

新日本酒紀行 地域を醸すもの・田むら NO.314


新日本酒紀行 地域を醸すもの

東京都福生市

田村酒造場「田むら」

新日本酒紀行「田むら」
蔵の横を流れる玉川上水から分水を引き込む Photo by Yohko Yamamoto

『千年の大欅に見守られて201年、
伝統を守り継ぐ東京の地酒』

 江戸市中への給水を目的に、1653年に2人の兄弟が掘削工事を請負った玉川上水。多摩川の羽村取水堰から、四谷大木戸までの43キロメートルの大工事で、国の史跡に指定される。幕府の許可を得て、玉川上水から敷地内に田村分水を引いたのが、東京都福生市の田村家だ。福生村の名主総代で、1822年に9代目の勘次郎が、酒造りを始めた。

 分水の水で水車を回し、精米に活用。上質な酒の仕込み水を求め、敷地内に井戸を掘るがなかなか良い水は出ない。諦めずにいくつも掘り続けると、酒造りに最適な中硬水の水が湧いた。勘次郎は「これぞよき泉」と酒銘を「嘉泉」と命名。水源は奥多摩山系から秩父古生層の上を流れる伏流水とされる。

当時の江戸の人気酒は灘の酒で、上方から来るので「下り酒」と呼ばれ、関東の酒は「下らない酒」と呼ばれた。「嘉泉」は灘の酒が売り切れる初夏から出荷し、人気を博す。昭和の級別制度時代には、高品質な酒を一級ではなく、あえて酒税の安い二級酒で出荷。瞬く間に売り切れ「まぼろしの酒」といわれ、看板商品に。

 2022年に創業200年を迎えた田村酒造場のシンボルは、八角形の煉瓦煙突と、蔵を暑さ寒さから守る樹齢千年近い大欅。1800年代の土蔵など登録有形文化財も多く、歴史を刻む自然や建造物が残る。蔵内は清潔を保ち、醸造機械は磨かれて輝く。技術研さんを重ね、酒米の違いを楽しむ「田むら」シリーズを開発した。全工程を丁寧に醸す挑戦作で、次世代へ伝統を守り継ぐ。

新日本酒紀行「田むら」
↑「田むら 純米吟醸 吟ぎんが」
田村酒造場・東京都福生市福生626
●代表銘柄:田むら、嘉泉 純米吟醸、嘉泉 まぼろしの酒
●杜氏:高橋雅幸
●主要な米の品種:吟ぎんが、山田錦
新日本酒紀行「田むら」
登録有形文化財の煉瓦煙突 Photo by Yohko Yamamoto
新日本酒紀行「田むら」
登録有形文化財の煉瓦煙突 Photo by Yohko Yamamoto
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登録有形文化財の煉瓦煙突、樹齢千年近い大欅、1830年築の元米蔵を酒の展示販売場に
新日本酒紀行「田むら」
登録有形文化財の煉瓦煙突 Photo by Yohko Yamamoto
新日本酒紀行「田むら」
樹齢千年近い大欅 Photo by Yohko Yamamoto
新日本酒紀行「田むら」
1830年築の元米蔵を酒の展示販売場に Photo by Yohko Yamamoto
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1830年築の元米蔵を酒の展示販売場に Photo by Yohko Yamamoto
新日本酒紀行「田むら」
酒蔵全景 Photo by Yohko Yamamoto
新日本酒紀行「田むら」
釜場には蒸米機、放冷機が並ぶ Photo by Yohko Yamamoto
新日本酒紀行「田むら」
麹室 Photo by Yohko Yamamoto
新日本酒紀行「田むら」
麹室 Photo by Yohko Yamamoto
新日本酒紀行「田むら」
出麹 Photo by Tamurasyuzojo
新日本酒紀行「田むら」
仕込み風景 Photo by Tamurasyuzojo
新日本酒紀行「田むら」
仕込み風景 Photo by Tamurasyuzojo

 

新日本酒紀行「田むら」
仕込みタンク Photo by Yohko Yamamoto
新日本酒紀行「田むら」
仕込みタンク Photo by Yohko Yamamoto
新日本酒紀行「田むら」
搾り機 Photo by Tamurasyuzojo
新日本酒紀行「田むら」
蔵内の神棚 Photo by Yohko Yamamoto

 

新日本酒紀行「田むら」
16代目の田村半十郎さん(左)と杜氏の高橋雅幸さん Photo by Tamurasyuzojo
新日本酒紀行「田むら」
クラシックな「嘉泉 特別純米 まぼろしの酒」 Photo by Yohko Yamamoto
新日本酒紀行「田むら」
「嘉泉 純米酒 白麹使用」燗酒が面白い! Photo by Yohko Yamamoto

(酒食ジャーナリスト 山本洋子)

週刊ダイヤモンド2023年9月16日・23日合併号より転載