新日本酒紀行 地域を醸すもの 日本酒

新日本酒紀行 地域を醸すもの・華鳩232


週刊ダイヤモンド 2021年 11/6号
新日本酒紀行 地域を醸すもの「華鳩」HANAHATO

広島県呉市音戸町

山本洋子:酒食ジャーナリスト新日本酒紀行

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↑陸海軍御用酒蔵時代の陶器製のかめ Photo by Yohko Yamamoto

注ぎ足し続けて半世紀!
瀬戸内海の島のお宝、濃醇な熟成貴醸酒

(本文)
貴醸酒は水の代わりに酒を使い、濃醇で甘くリッチな香味豊かな贅沢酒。広島県呉市倉橋島の榎酒造が、1974年に日本で初めて商品化した。

「8年以上寝かせ、熟成させています」と4代目蔵元の榎俊宏さん。

創業は1899年。島は急峻な山の伏流水が豊富で、田んぼもある。昔、瀬戸内海は交通の要衝で、廻船の運搬も盛ん。風待ち、潮待ちの船が停泊し、多くの人でにぎわい遊郭街もあり、海の銀座と呼ばれた。蔵は、陸海軍の御用酒蔵に命じられ、戦時中も酒を造り続けた珍しい歴史を持つ。

貴醸酒は1973年に国税庁醸造試験所で、貴腐ワインのような高級日本酒を目指して開発された。三段仕込み最後の一段「留め」で、水の代わりに酒を加える。

榎酒造はクラシックな貴醸酒のほか、にごり酒、六段仕込みの極甘口、白麹を用いた爽やかな酸味があるタイプも展開する。

酒造りは榎さんと、藤田忠杜氏、蔵人の3人で行い、島内の田んぼでは酒米栽培に杜氏も蔵元も励む。評価も高く、全国新酒鑑評会で金賞16回、英国の品評会IWCの古酒の部で金賞11回に輝く。

「面白い酒だから、世界中の人に知ってもらいたい」と榎さん。実は貴醸酒、ただ8年貯蔵しただけではない。

出荷用貯蔵タンクの残量が約3分の1に減ったら、8年熟成の貴醸酒を足し、味にバラツキが出ないよう、ウナギのたれのように注ぎ足すという。

半世紀近い酒がブレンドされ、米や醸造技術、熟成という蔵の歴史が貴く詰まる。

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華鳩 貴醸酒8年貯蔵

榎酒造・広島県呉市音戸町南隠渡2-1-15 ●代表銘柄:華鳩 貴醸酒オーク樽貯蔵、六段仕込み 超濃厚貴醸酒、貴醸酒の生にごり酒 ●杜氏:藤田忠 ●主要な米の品種:八反錦、中生新千本、吟のさと

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榎俊宏さんと姉の真理子さん Photo by Y.Y.

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蔵のシンボル煉瓦の煙突 Photo by Y.Y.

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蔵の屋上に並ぶ昔の酒がめ Photo by Y.Y.

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【写真】蔵内