新日本酒紀行 地域を醸すもの 日本酒

新日本酒紀行 地域を醸すもの・喜三郎の酒 263

 

↑ひんやりとした貯蔵トンネル。もとはJR東日本・奥羽本線のトンネルで、年間通じて12度前後という。

新日本酒紀行 地域を醸すもの「喜三郎の酒」

秋田県能代市

 

れんが造りでアーチ型の坑門のトンネルは登録有形文化財れんが造りでアーチ型の坑門のトンネルは登録有形文化財 Photo by Yohko Yamamoto

『トンネルで寝かせて四半世紀!
 円熟味を帯びた吟醸酒』

(本文)

 秋田県能代市の喜久水酒造は、全国でも珍しいトンネル貯蔵庫を持つ。年間を通して12度前後で太陽光が当たらず、光が苦手な日本酒の熟成に向く。しかも、電気不要のエコ貯蔵庫だ。

「酒に色が着かず透明なまま熟成し、まろやかになります」と7代目で杜氏の平沢喜一郎さん。

 きっかけは、6代目の喜三郎さんが、熟成で価値が上がるワインに対し、同じ醸造酒の日本酒は違うことに疑問を持ったこと。実験すると、上質な酒米で造った吟醸酒は、熟成で美酒に変わった。

 ドイツのワイン会社へ行き、貯蔵庫を見ると、地下にある。「これだ!」とひらめき、場所探しを始めた。

 そして鶴形トンネルの存在を知る。1900年竣工の旧奥羽本線のトンネルで、複線化に伴って隣に新トンネルができ、73年に役目を終えていた。

 低温貯蔵施設の建築と運営には、莫大な投資と稼働させるための経費が必要になるが、トンネルなら一挙両得。

 家族や社員は猛反対したが、JR東日本に交渉。だが難航し、トンネルの上の山林を買って粘り強く交渉を続け、96年に払い受けた。

 全長100m、高さ4.6m、広さは100坪あり、6万本の貯蔵が可能。今は2万本が眠る。2000年に、明治時代のトンネル建設の技術や様式を知る貴重な遺構と評価され、国の登録有形文化財に。文化も守ることができた。

 喜三郎さんは、トンネル貯蔵20年の大吟醸酒を、1本100万円で販売する計画を温める。

 “タイムトンネル”を通った熟成酒、果たしてその味は。

純米吟醸 喜三郎の酒
↑「純米吟醸 喜三郎の酒」
●喜久水酒造・秋田県能代市万町6-37
●代表銘柄:醸蒸多知、朱金泥能代、俺の亀 大地、比羅夫、亀の舞、喜一郎の酒
●杜氏:平沢喜一郎
●主要な米の品種:山田錦、華吹雪、亀の尾、秋田酒こまち